South Pole : Where Even a Monkey Can Survive

猿でも生き残れる南極点

南極点のアメリカ基地 (Amundsen-Scott South Pole Station) は、 無茶しなけりゃ猿でも生活できるところです。そんなところでも チョット知っておくとオトクという事柄を猿なりにまとめてみました。 来年以降、基地送りにされる名誉ある方々(含む自分)の参考になれば幸いです。

服装
寒冷地仕様の服、靴は、NSF(全米科学財団) から ECW (Extremely Cold Weather) として 貸し出されます。ですので防寒服を自分で調達する必要は 基本的にありません。靴下まで支給されます。 ですが、よくアウトドアを楽しむ人で 自分専用のお気に入りのものがあれば、持っていくと心地いいでしょう。 僕は防寒靴とフリースを持っていって愛用してました。意外と盲点なのが 室内の服装。基地の室内は暑いくらいですが、 部署を移動時に寒いところも通らなければならない場合があります。 こうした場合、薄手の服を重ね着するのがベスト。 一番上は支給されるやや薄手のジャッケ(言い方が古いか)を着れば十分。 下はジーパンで楽勝です。便利だったのが防寒機能のある下着。 日本でもスポーツ店などで、上下の長袖肌着が売っています。 これは暖かい上に、洗濯してもすぐ乾くので、重宝してました。 おすすめです。

靴は、支給される防寒靴は室内には重すぎます。普通のハイキングシューズ などを持っていくのが幸せです。クリスマスのマラソンレース (Race Around the World)は、ジョギングシューズ で走りました。氷河の上ですけど。意外に重宝したのが手袋。 支給される手袋もある(しかも3種類も!)のだけど、 ゴツイので普段使いや細かな作業をするには向いていない。 スポーツ店で売ってる防寒なんだけど薄手のやつを持っていったら、 大変役立ちました。

ウインドーブレーカーは、前述の薄手のジャケットが支給されるので 必要ありません。ただ、帰りにクライストチャーチでハイキングなどの 休暇を楽しむときには、あってもいいかも。別になくても困りませんが。

このように重量のかさむ寒冷地服や靴は支給されるので、室内用の 服や下着、それに最低限の自分専用屋外アイテムがあれば大丈夫です。 というのも、南極に持っていける荷物の総重量は75ポンド、約35kg ほどまで と決まっているので、無駄に重いものを持っていけないからです。 本などもかさばるし重いので、よく考えて荷造りしましょう。 なお、荷物を入れる用のザックリ袋も二つ支給されます。 南極飛行当日の朝に、荷物を空港で整理する時間がありますので、 この袋に詰められるものは詰めて、残りは自分のカバンに入れて持っていくか 置いていくかの選択をします。僕は空のスーツケースを置いていきました。 帰ってくるまで預かってくれます。ちなみに、二つの袋のうちの一つは 手荷物(Carry-on, Hand-Carry)用です。大きさは二つの袋とも同じ大きさです。 かなり入ります。

洗濯
洗濯は週一回までと決められています。シャワーは週2回。 もちろん紳士協定ですので、好き勝手することも可能ですが、 そこは皆さんキチンと守っています。 洗剤は現地にありますので持っていく必要はありません。
小物
必須の小物はサングラスです。ECW としてゴーグルが支給されますので 無くても生きられますが、あると数段便利。 南極点は大変美しい所ですが、その美の代償としての紫外線は 雪の照り返しもあって厳しいものがあります。 UV 100% カットのいいものを持参のこと。 金属フレームは凍り付きますから不可です。 当然日焼け止め(Sun Screen) も必須アイテムです。

手洗い所には必ずペーパタオルがついているのでハンカチは必要ありません。 ティッシュペーパーもあります。 ただし日本のモノと違い、紙質が硬いのでポケットティッシュは あった方がいいでしょう。

あらゆる電気製品は使用可能です。110V 60Hz のアメリカ仕様の電源ですので ほとんどそのまま使えます。ただし途中のNZはオセアニア仕様のコンセント に240V ですから、変換コネクタが要ります。

大概の小物はストアで買えますので、忘れても大丈夫です。 女性に必要なものも揃っています。 ストアは曜日により開店時間が異なりますので注意。 大体、一日2時間くらいの開店です。月曜は休み。

食事
食事はビュッフェ形式です。時間が決まっていますので、 遅刻すると食べられません。必ずスープもあります。 皆さんあまり飲んでませんが、 たまにすごくおいしいのがあるので要チェック! 南極点にいることを疑うくらいの質と量ですが、そこは アメリカン。やはり飽きもくるし、肉攻めの毎日 に耐えられない人もいるかもしれません。ベジタリアン メニューも必ずあるので、そちらをトライしてみると よい場合もあります。デザートもあるのですが、 チーズケーキにせよ、チョコレートムースにせよ 悪くないのだけど、とにかく甘い!アメリカンです。 コーヒー無しには食べれませんでした (でも毎日喰ってました(苦笑))。食べ物、飲み物当然ながら 全て無料。乾燥しているので意識的に水分補給を心がけていました。 ピンクレモネードが僕のお薦めです。これにアイスクリーム が定番でしたね(アイスクリームマシンがあって食い放題)。

夜食もありますが(夜といってもカンカン照りですが)、 これは夜中にシフトで働いている人たち用の食事なので、 基本的にはあらかじめサインアップしておかないと 食べられません。ただしそこはあくまでアメリカ流。 大体午前1時を過ぎても食べ物が余っているなら、大丈夫。 夜中にカフェで仕事をしているときに、よく喰ってました。 どこかの日本の組織のようなうるさいことは一切無しです。 夜食のほうが抜群に旨いときも多々あり、お得感があります。 遅くまで仕事したときのご褒美をもらった気分です。

毎日曜日はサンデーブランチがあります。午前10時半開始 です。好きな具をいうと目の前でオムレツを作ってくれます。 楽しみの一つ。僕の定番は、ハム、マッシュルーム、チーズ にグリーンオニオンです。あと種々のチーズもあり。 フェタチーズ(ギリシャのチーズだね、僕は昔からのファンです) ジャックチーズ、スイスチーズ、ゴルゴンゾーラもあります。 ああ、これでワインがあれば幸せの絶頂なのにぃ..そう、 ワインもストアでボトルを買えるので、飲もうと思えば飲めるのですが 仕事ができなくなるので、ぐっと我慢の子でした。 次回は是非飲みたいと思います(キッパリ)。

キッチンスタッフは総勢10名程度いたと思います。 普段は、自分で皿洗ったりする必要はありません。ただし週末、休日は、 スタッフも休むので皿洗いのボランティア募集がでます。 ボランティア精神もアメリカ流です。僕もやりました。 お湯も使えますし楽勝です。Rice 実験の番頭、Kanzas State の Dave Besson も教官のくせに(だからこそ) 学生よりよく皿洗いをしてました。またそれが良く似合ってましたよ、ハイ。 ボランティアと言えば、発電機のおもりをするボランティア募集も出ていて やりたかったのですが、時間が合わなくて出来ませんでした。 次に来たときの課題の一つです。

ネットワーク・メール環境
メールアカウントは、南極ステーションのアカウントと amanda のアカウントがすぐに貰えます。南極ステーションのサーバーは POPを内部から許可してくれるので、僕はそっちを重宝していました。 ユーザーIDは、姓名の最初の6文字と名前の最初の2文字がくっつけられた ものと決まっています。メールアドレスは、FirstName.LastName@usap.gov となります。基地の公衆端末は Windows で Outlook でメールを読み書き するのが基本となっていましたが、これは建設労働者も含む一般向けの システムだからでしょう。科学者連中は unix base の端末から、 好きなメーラーで読んでました。自分のラップトップを接続する場合、 まずラップトップを computer staff にチェックしてもらい ウイルススキャンの検査を受けます。その上でサーバーのアドレスを 聞いて、POP で読み出せるように設定します。日本のメールサーバーには forward file を置いて usap.gov に転送するように仕込んでおきました。 このファイルには、日本のメールサーバ(つまり自分自身)の名前と バックスラッシュをつけておくことで、日本のサーバにもメールを 残せます(椎野君が教えてくれました。感謝)。

無線LAN も一部で稼働していて、便利でした。もちろん普通の 有線LANのポートも、例えば、AMANDA の部屋にはあるので そこでラップトップを繋げて仕事をしていました。ケーブルは 持参していったほうが良いです。

とにかく乾燥しているので、静電気を放電します。計算機や回路を いじるときは、これに注意を払います。AMANDA部屋では、机の縁に アルミホイルを張ってあり、これで自分を放電?させてから 計算機を触る習慣です。僕も1度、静電気でPCをフリーズ させてしまいました。

ライフスタイル
これは千差万別、仕事内容にもよるので一概には言えません。 一般的には、科学者のほうは曜日に関係ない生活を送り (サンデーブランチと土曜日のピザナイトが無ければ、 僕も曜日感覚が完全に麻痺していたでしょう)、 サポートスタッフや建設関係の人たちは 曜日に準じた生活をしているようです。 速い衛星回線がつながるのが夜中から朝にかけてなので、 仕事によってはその時間帯に合わせて生活している奴もいます。 ま、要するに夜型ってことですね、明るいですが。 仕事の合間の息抜きに、"Bar"にコーヒーを飲みに行ったり、 だべりにいったりします。煙草も室内で吸えるのはここだけです。 僕は夜中はカフェテリア("Galley")でコンピュータ仕事をしていました。 夜食の恩恵もありますし、大きな窓から ちょうど太陽が雪面を照らして大変美しい様が 拝めるので、大好きな時間帯でした。 時折 New York Times のダイジェスト版が届くので それを読んだりして、アメリカブッシュ政権の愚行とNFL/NBA の stats を update するのも暇つぶしになります。 新聞といえば、南極のアメリカ基地 (McMurdo, Palma, Amundsen-Scott の3基地と幾つかの野営地点) 内のコミュニティー紙 "Antarctic Sun" というのがあって、 結構おもしろいです。専任の記者もいて、McMurdo 基地には 編集部の部屋もあてがわれていました。そこのインタビュー記事に 立派な日本人として登場するのが密かな野望です。

食事から何から全てタダなので、お金を使うことは全くありません。 一文無しでも生活できます。ただストアでちょっと何か買いたいとき、 例えばお酒などですね、このときには、米ドル現金が必要です。 クレジットカードは使えません(McMurdo基地は使えます)。 現金は、南極点に行く前に、McMurdo 基地に Bank of America の ATM があるので、そこで幾らか引き出して持って行きます。

お酒は、非常に安いです。今回は全くといっていいほど(2,3日の例外を除く) 飲みませんでしたが、例えばタンカレーのジンは大瓶が $12.5 くらいでした。 東京のやまや並みのお値段です。ビールは種類があまりなくバドとかミラー とかの不味いやつらしかありません。ただし越冬向けにそろえる品々は 越冬部隊の好みを聞いて貰えるらしく、2000年の越冬時には世界中のビール を揃えたという話しを某ドイツ筋から聞きました。

あとはビデオや映画などの上映会を自主的にやったり、 ストアからビデオをレンタルしたりが、メジャーな息抜きです。 ジムでの卓球やバスケット、果てはヨガ教室からスペイン語教室まで が自主的に開かれています。これらの情報は e-mail で回ってきます。 自分が何かをしたいときにも、メールで呼びかけます。 一般に、仕事中毒で比較的短期滞在の科学者連中より、より長期滞在の サポートスタッフや建設技術者達が、これらの活動に熱心です。 日曜日は夜7時からカフェでサイエンス・レクチャーが開かれ、 南極で観測実験をしている科学者が、素人向けに講演します。 知った話しも多いのですが、改めて聞いても結構おもしろく 僕は毎回出席していました。


アメリカ南極基地専門用語集

Back of Science
Science Building 内の AMANDA 部屋の呼称。 電話を受けるときなどによく使う。
Bag Drag
南極におけるアメリカの前線基地 McMurdo Stationで、 南極点に飛ぶフライトの前日に、飛行機に乗せる荷物の計量 をする。その計量をするために、全ての荷物を持ち、 防寒具を来て出頭することをいう。McMurdo のテレビの7チャンネルで フライト情報とともに Bag Drag の日程が表示されるので 自分の時間をチェックしておく。掲示版には、 乗客名簿も張り出されるので、 不安があればそれも参考にできる。ちなみに、計量は順番があり、 最初に、預ける荷物("Check-in")次に手荷物("Hand-Carry") 最後に自分自身("YOU!")を計量する。パスポート持参のこと。 もし、McMurdo の滞在が数日足らずであれば、Check-in の荷物は 取りにいかずに放っておけば、Bag Drag のビルに置かれるので 重い荷物を持ってウロウロする必要がない。そのためにも Hand-Carry の荷物内に、ちょっとした服(防寒着以外の)や靴を入れておくことが 大事。
Beer Can (ビール缶)
南極点の新ステーションで、階段があるタワー部分のあだ名。 バドの缶に見えなくもないので、そう呼ばれている。 とにかく階段をひたすら上り降りする。空気が薄いので息があがります。 Vertical Tower というのが正式?名称。
CDC
Clothing Distribution Center の略。クライストチャーチに ある、USAP (合衆国南極プログラム) のセンターにある ECW (防寒服・器具)を配布する場所。南極へ飛ぶ前日に、ここに召集され サイズ合わせをする。国際空港に隣接している。
Check-out
いわゆるホテルのチェックアウトではなく、レンタルのこと。 ビデオや本をチェックアウトするというように使う。
Comm (コム)
Comminucation 部門の略。他基地との無線連絡から飛行情報、 基地内の情報伝達の全てを担う最重要部門。内線282 は 暗記すべき必須の電話番号。ドーム内にあるが、 近々に新ステーションビルに移る予定。
Condition 3
天候の状態。3 は通常。2 は、フライトに制限が加えられ、 1 は室内から出てはいけない。
C-130 (シー・ワンサーティー)
空軍の主力輸送機。McMurdo と南極点の間の輸送に使われる。 歴史は大変古く、ベトナム戦争時に設計・製造が開始された。 車輪にスキーをつけて滑走する。スキーによる離着陸の技術に秀でた 空軍 New York National Guard の十八番。 ちなみにプロペラ機。より大型の C-141 ジェット機が 南極-NZ間の輸送に使われるときもある。スキーはできない。 僕は帰りはこいつでした。
Dark Sector
南極点地域は、プロジェクトの種類によって実験・観測場所が 区分されている。Dark Sector は、Astrophyiscs の観測が 行われる場所であり、文字通り「暗く」なければならない。 電波などの通信も厳しく制限されている。IceCube はこのエリアに建設される。 他にも Quiet Sector があり、ここでは地震計や地殻関連の観測が行われているため 「静か」でなければいけない。
Dome (ドーム)
アメリカ南極点基地(Amundsen-Scott South Pole Station) の本部があるドーム状の建物。新ステーションが建つまでは、 ここがメインだった。今でもかなりの機能が残されているが、 来年にはかなりの部分が移されると思われる。AMANDA の部屋のある Science Building, 昔カフェだった場所("Old Galley")、バー、 図書室、ストアもここにある。
Galley (ギャリー)
南極点カフェテリア。新カフェテリアは、大きな窓に覆われて 大変明るい。正式名称は "Dinning Facility" 味もそっけもないっす。
NSF Grantee (エヌ・エス・エフ グランティー)
National Science Foundation (全米科学財団) の補助金 (Grant)に サポートされている人達。要するに科学者。我々の事です。これに対し、 RSPC (NSF から委託をうけ、基地の運営を請け負っている半民間会社) の従業員を、RSPC employee と呼ぶ。
Operation Deep Freeze (極凍作戦?か)
夏期間(October-February)におけるアメリカの南極輸送活動の総称。 アメリカ空軍のニューヨークナショナルガードに輸送を委託しているので 作戦名がついている。
PAX (パックス)
Passengers つまり、乗客のこと。PAX-Out は outbound passengers つまり南極点から出ていくフライトに乗る人々を指し、 PAX-In は、南極点に来る人々をいう。
PI (ピーアイ)
Principle Investigator のこと。一般には各大学毎に PI がいるのが普通で、IceCubeの組織では、僕もPIです。 しかし、ここ南極では、Program 毎に PIが一人となっており AMANDA は ボブ、IceCube はフランシスが PI である。ただ 実際上は、その時に南極点にいるメンバーのなかでもっともシニア の人間がその都度 project を代表して PI の役割を果たし、 土曜日の Science Meeting に出席して、グループの利益を代弁する。 今回は、シュテファンが帰ったあとは、僕が AMANDA/IceCube の PIを務めていました。
Polies (ポーリーズ)
南極点に滞在している我々の呼称。ニューヨークにいる人を ニューヨーカー、テキサス人をテキサン、 東京生まれを江戸っ子と呼ぶのと(微妙に違うが)一緒です。 南極の他の基地にいる人々と区別する時にも使います。 俺達は極点にいるんだ、おまえらとは違うぜ、というニュアンスが 感じられます。
Redepoloyment
無事任務を終え、帰還すること。南極点を去る日の朝9:00に Library で打ち合わせの会議がある。これを redeployment meeting という。
spole web (スポール ウエブ)
南極点基地のウェブサイト。何か困ったらここを見る。 フライト情報から、現在の気温、風速、 カフェのメニューから電話帳も載っている。usap.gov のメールは、 ここからweb-mailで読み書きもできる。ただし日本語は書けない。 北半球からは衛星がつながっているときしかアクセスできません。
S-Presso (エスプレッソ)
残念なことにコーヒーではありません。Quite Sector の端に位置する エリア名。縦穴を掘って地質調査などを行っている。 Station から5マイルほど離れており、スノーモービルでないと アクセスできない。僕は残念ながら行ったことがありません。 Rice 実験の連中が、テスト用のアンテナを建ててデータを取るため 毎晩この地で凍えていたようです。ご苦労様。
USAP
United States Antarctic Program の略。 南極における合衆国南極プログラム。NSF(全米科学財団)の管轄。 南極大陸をあしらったキャラクターマークもあり、ワッペンが貰える。 ストアでキャラクター商品?も売っている。
Winter Over
越冬隊員のこと。約20数名いる。
1400 (フォーティーン・ハンドレット)
午後2時のこと。軍ではよくこんな呼び方で時刻を表します。

Shigeru Yoshida
Last modified: Thu Jan 8 06:18:30 JST 2004